1.相当温位とは
一般的には相当温位は次のように定義されます。- ある気塊を、飽和に至る(※)まで、断熱的に減圧(上昇)させ(凝結していないので乾燥断熱過程という)、
- 水蒸気のが無視できるくらいまで減少するまで、偽断熱的に(凝結した水をただちに除去させつつ)減圧(上昇)させ、
- 1000 hPa に至るまで乾燥断熱過程で圧縮したときの温度
書物によって若干ニュアンスが違うかもしれませんが、数式の前に上の散文的な定義がおおもとであって、どんな数式も近似にすぎないとお考えください。つまり、厳密に数式を変形して積分記号が含まれないように書き下すことができないのです。
この量は乾燥断熱過程でも偽断熱過程でも保存するという特徴があり、つまり降水が想定される場合の安定度の診断に用いられます。
いっぽう、一部著者によっては、上記を偽断熱相当温位あるいは偽相当温位と呼び、乾燥断熱過程と可逆湿潤過程(偽断熱過程と異なり凝結した水滴は気塊中に留まるとする)によって保存するような量を相当温位と呼ぶ流儀もあります。
なにが正しいというのは控えますが、現業気象機関としては、利用上から、またWMO国際気象用語集の定義に従い、冒頭の定義(偽断熱過程のほう)を相当温位と呼ぶのが適当であるということになりました。
2.主要な近似
式を挙げる余裕がありませんが、次のような文献がしばしば参照されます。
- M. Robitzsch, 1928: Äquivalenttemperatur und Äquivalenthermometer. Meteorologische Zeitschrift, pp.313-315. [著作権切れがほぼ確実と思われるので打ち込みを貼っておきます]
- C. G. Rossby, 1932: Thermodynamics applied to air mass analysis. M. I. T. Meteorological Papers, 1, No. 3. [ウッズホール研究所 PDFあり]
- J. R. Holton, 1972: An introduction to dynamical meteorology. Academic Press, 319 pp. [売っている本なので全文は貼れませんが、要は(9.40)式 θe ≈ θ exp(Lcqs/cpT) です]
- D. Bolton, 1980: The computation of equivalent potential temperature. Mon. Wea. Rev., 108, 1046-1053. [AMSのサイト]
いっぽう、Bolton は数値計算の結果をあてはめて精度の高い近似式をいくつか示しました。ホルトンとボルトンでは大違いです。
今回、気象庁では原則として Bolton (1980) でいう式 15 (LCL算出)と式 39 (LCLの諸量から相当温位を与える式)を用いることにしました。
3.影響を受けるFAX図
気象庁の FAX 図で相当温位が現われるのは、次の3種です。- FXJP854 (FT=48までの平面図)
- FXJP106/FXJP112(航空断面図)
- FZCX50 (週間予報支援図、FT=72以降)
なお、気象庁が提供する数値データ(GPV)には相当温位という量はありませんので、今回の計算方法見直しによってデータ利用者へのシステム的影響はありません。
4.どのくらい差が出るか
まず大小関係は、実用の温度では、次のようになります。従来のFXJP106 < 従来のFXJP854 << Bolton
[加筆: FXJP106 と FXJP854 はちょっと違う程度で、1 K も違うようなことはまずありません。
数値が気になるのは主に 850 hPa 相当温位の太線を暖湿気の指標として使うような場合だと思いますが、] Rule of thumb として、相当温位 330 K 付近では 3K程度、345K では 4.5 K 程度異なります。
FXJP854 は 3K おきに等値線がひかれるので、それぞれ1本分、1.5本分です。
[加筆: もっと大胆に要約すると、新しいFXJP854ではコンター1本ぶん相当温位が高めにでます。]
より細かい数値については、こちらの表をご覧ください。
わかりにくそうなところを若干補筆しました。また、可能な限り文献を参照できるようにしました。
返信削除Bolton(1980) のリンク切れをなおしました。DOI にしたので今度は永続してほしい所です。
返信削除