2014-10-23

積読を処理していたら流体力学会誌「ながれ」2010年12月号だけがぽろりとでてきたから読んでみる

当然ここ数ヶ月のがたくさん机につまれているのですけど、流体力学会は発行後半年たたないとウェブ公開されないからそっちの会誌読みはまた後日。そうやって忘れちゃうんですけどね。

で、紙の山を片付けていたら、どういうわけだか2010年12月号だけ出てきた。なぜ読まないで保存していたのかわからないけど、開いてみると、年会特集号ということでちょっと現場の人間にもとっつきやすいです。
http://www.nagare.or.jp/publication/nagare/archive/2010/6.html

小野寺直幸・青木尊之・小林宏充 GPUによるラージエディ・シミュレーションの高速化
http://www.nagare.or.jp/download/noauth.html?dd=assets/files/download/noauth/nagare/29-6/29-6tokushu7.pdf
主題じゃなくて申し訳ないけれど、緒言の「LESとは」がとてもよい。いままで勘違いしていたけれど、第一原理計算(DNSという)ではないのですね。小スケールの乱流を気象で言うところのパラメタリゼーションしているので、固定境界付近で問題が生じるのだという。そんなことも知らないのかと言われるとえへへというしかないですが。
最適化についてはカーネル対通信時間の比が問題という、わかりやすいお話。よく知らないけど。

田井 明・齋田倫範・矢野真一郎・小松利光 潮汐振幅の全球的な長期変化
http://www.nagare.or.jp/download/noauth.html?dd=assets/files/download/noauth/nagare/29-6/29-6tokushu8.pdf
M2潮の振幅を数十年スケールで追うと有意に変動しているのだといいます。はじめに、で地球温暖化に起因する海水準変動について語ってしまっているので、せめて振幅の増減が海水準の上昇と整合的か否かについて一言ほしいと思ってしまいますが、まあ、それはこれからというのでしょう。

竹原幸生・江藤剛治 風波砕波下における渦運動のPTV計測
http://www.nagare.or.jp/download/noauth.html?dd=assets/files/download/noauth/nagare/29-6/29-6tokushu10.pdf
空気が水中に取り込まれることに感心を持っているようです。物質交換への関心かな。

足立高弘・新井晶大 回転円すいの外表面を上昇する液膜流れ
http://www.nagare.or.jp/download/noauth.html?dd=assets/files/download/noauth/nagare/29-6/29-6tokushu13.pdf
こんな方法で効率の良い噴霧器が作れるとは思いませんでした

2014-10-21

気象モデルを真に回転楕円体に対応させる研究と座標参照系

発端は WIS データカタログで座標系をどう書くか、というか、GRIB データで地球が平均半径 6371.229 km の球となっているのに対して、地理情報メタデータではどういうCRS(座標参照系て訳すのかな)を与えたらいいのかと聞かれたのですよ。

CBS-IPET-MDRD フォーラムの次のスレッドご参照:
https://groups.google.com/a/wmo.int/forum/#!topic/cbs-ipet-mdrd/bYa0kl9Kp3w

ちなみに上記地球半径については過去記事ご参照:
http://toyoda-eizi.blogspot.jp/2012/09/mean-radius-of-earth.html

で、気象モデルというのはたしかに地球を真球と仮定して方程式系を構成するわけですが、だからといって真球ベースのCRSを作って与えなきゃいけないというのは飛躍が過ぎます。いつも言っていることですが、

 ・データは何に使うかを詰めなければまともに検討できない
 ・事物の本質を記述すれば万事に応用できるというような発想は百害あって一利なし

なのであります。だからセマンティックウェ…と脱線するのはおいといて、で、突き詰めていえば

 ・CRSは地図がずれないようにデータにつけた注

なのですから、気象モデルに流し込む観測が持っている経緯度は実のところWGS84である(2006年CBS臨時会合勧告1)ことを思い出すと、ここはモデルの方程式系が何であろうが知ったことではなく、すべてのモデル出力は WGS84 による経緯度座標 geographical coordinate system と言っておけばいいのです。間違って球ベースのCRSなんか定義してしまったら、そこでいう緯度は地心緯度だということになって、最悪 21 km とかずれてしまいます。

地心緯度と地理緯度の図:
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/06/Two-types-of-latitude.png

(もちろんモデル出力が経緯度格子ではなく、地図投影された座標系上の等間隔格子に出されるのであれば、その地図投影の記述はなされるべきですがそれは別の話だし、いまどきそれが WGS 84 ベースでない例はUK National Grid みたいに極めて限られるはず。)

…と断言してしまってからその筋の人に聞いてみると、気象モデルで回転楕円体の効果を考慮しようという研究も最近はあるようです。

P. Bénard (2014, QJRMS): An assessment of global forecast errors due to the spherical geopotential approximation in the shallow‐water case
http://www.readcube.com/articles/10.1002/qj.2349

なんだかロスビー波の位相速度が地球離心率εのオーダーで変わるというので、2週間予報にとってはたしかに馬鹿にならないような気もしますが、まあいずれにしても今のところの現業気象界ではそこまでは考えていません。

ちなみに今のモデルでも地理緯度で観測と合わせるので、コリオリの力はあっているんですよね。だからジオポテンシャルとメトリックの誤差という言い方になるんだと思います。

で、元のスレッドの話はそれでは終わらなくて、INSPIRE では指定してもよい CRS が厳しく限定されているというんですね。
http://inspire-geoportal.ec.europa.eu/documentation/legal-and-tgs/ds/INSPIRE_DataSpecification_AD_v3.1/
の§6.1.2 あたり)
気圧座標はICAO標準大気で高度に換算せよ、と言われても、航空気象用でなければ異様ですし、さもなくば ISO 19111-2 で座標系を記述しろ、といわれてもエンコーディングの標準たとえば WKT2 (ISO 19162) は公刊されていません。UML だけ渡されてコンセプチュアルには表現できる、といわれても、あまりに無責任じゃないでしょうかINSPIREさんよ。まあそこまで怒ってもしょうがないので、とりあえず単に気圧ってかいとけば、といって様子見をしています。

なんで欧州の地理屋さんが欧州ローカルルールで気象機関の心配をしてくれない世話まで焼かなきゃいけないのか、と思わなくもないですが、まあ、WMO の専門家チームの共同議長だから仕方がありません。こういうことをやって初めて先進地の具体が教えてもらえるということもありますしね。

2014-10-17

回転楕円体からのポーラーステレオ図法

まず、半径 \(R\) の地球からのステレオ図法の順投影 \(f: \varphi, \lambda \to E, N\) は、
緯度を \(\varphi\) とすると

\[ r = 2 R \tan\left(\frac{\pi}{4} - \frac{\varphi}{2}\right) \]

\[ E = r \sin\left(\lambda - \lambda_0\right) \]

\[ N = -r \cos\left(\lambda - \lambda_0\right) \]

と表わされる。

ステレオ図法は正角図法であるから、その性質を壊さないためには、
なんらかの回転楕円体から球への等角写像 \(g: \varphi', \lambda' \to \varphi, \lambda\) の後に \(f\) を適用すればよい。
ステレオ図法は方位図法であるから、経度方向の伸縮があると図に裂け目ができてしまうし、両極は両極に写像されないといけない。
その条件を満たすありがたい等角写像があって

\[ \lambda = \lambda' \]

\[ \tan\left(\frac{\pi}{4} + \frac{\varphi}{2}\right) =
\tan\left(\frac{\pi}{4} + \frac{\varphi'}{2}\right)
\cdot \left(\frac{1 - e\sin\varphi'}{1 + e\sin\varphi'}\right)^{e/2}  \]

というのである。ここで \(\cot x = 1/\tan x = \tan(\pi/2 - x)\) であることを思い出すと

\[ \tan\left(\frac{\pi}{4} - \frac{\varphi}{2}\right) =
\tan\left(\frac{\pi}{4} - \frac{\varphi'}{2}\right)
\cdot \left(\frac{1 + e\sin\varphi'}{1 - e\sin\varphi'}\right)^{e/2}  \]

\[ r = 2 R \tan\left(\frac{\pi}{4} - \frac{\varphi'}{2}\right)
\cdot \left(\frac{1 + e\sin\varphi'}{1 - e\sin\varphi'}\right)^{e/2}  \]

ということになる。

あとは \(R\) をどうやって評価するかであるが、ふつう標準緯度における縮尺が与えられるので、その緯度円の地図上の円周と、回転楕円体上の緯度円の円周が等しくなるようにすれば地球赤道半径 \(a\) を用いた形にすることができる。

EPSG 9830 http://epsg.io/9830-method なんかはそうやっている。

回転楕円体からのステレオ図法(MathJaxの練習)

EPSG 9829 とか EPSG:9830 にでてくる投影式はなんですかというメモ。

ステレオ図法というのを北半球天気図なんかでよく使う。
地球を球だと思えばその投影式はこんなである。

\[ E = a\sin\left(\lambda - \lambda_0\right) \]
\[ N = -a\cos\left(\lambda - \lambda_0\right) \]
\[ r = \tan \left( \frac{\pi}{4} - \frac{\varphi}{2} \right) \]

が、しかし、回転楕円体であることを意識するならば、そうはいかない。回転楕円体から球面への等角写像をして、さらに球面から上記の投影をおこなうことになる。

等角写像の選択に任意性がないわけでもない。しかし、実際には経度を保存する写像をつかわないと緯度円を円に投影しないことになって、方位図法では大変具合が悪い。楕円体上の緯度 \(\varphi\) を球面上の緯度 \(\chi\) にうつしてから投影することになる・

\[
  \tan\left(\frac{\chi}{2} + \frac{\pi}{4}\right)
= \tan\left(\frac{\varphi}{2} + \frac{\pi}{4}\right)
  \left( \frac{1 - e\sin\varphi}{1 + e\sin\varphi} \right)^{e/2}
\]

2014-10-01

最近の飛行機はUSB給電をしてくれるのでありがたい

今月はたてつづけに海外出張をしてのべ地球一周半しております。
成田→アトランタ→サンパウロ→シウダーデルエステ経由アスンシオン、アスンシオン7泊、同左逆向き、松戸6泊、成田→仁川→ヒースロー、レディング3泊、同左逆向き、というワールドツアーで、30代のころは俺にタイムゾーンなんかないと豪語していたのはどこへやら、ちょっと限界への挑戦の様相を呈しております。

長い航空便というと、寝るんでなければ映画か本が相場でありましたが、昨今の飛行機はUSB給電をしてくれるものが増えているようで、電子機器利用大幅緩和もあって、電子書籍という手ができてきましたですね。映画はわりと苦手なんですよ。もともと数分を超える動画というのが苦手というか、2時間コミットできるか定かでないし、途中で寝ちゃうとなんかすごくもったいない気がするとかいう貧乏性かもしれません。

Kobo touch ならば12時間くらいフル稼働してもぜんぜん電池がもつのですが、読書灯の建付けしだいでは遠慮しちゃうこともあります。が、USB給電があれば、Nexus7 2012 みたいなふつうのタブレットで使い続けられます。タブレットならばPDFやワードの文書を読み込むといった仕事もできるし、ずいぶんありがたいことです。

米国高解像度モデルHRRRの情報

9月23日からHRRRが本運用されているらしいのですが、関連情報

NOAAプレスリリース
http://www.noaanews.noaa.gov/stories2014/20140930_hrrr.html
(次2つがリンクされています)

ESRLによるモデル説明
http://ruc.noaa.gov/hrrr/
(スペックですね。まあ、日本のLFMや降水短時間予報の立ち位置ですわね)

NWS Technical Implementation Notice 14-32
http://www.nws.noaa.gov/os/notification/tin14-32hrrr_oper.htm
(日本で言うと支援センターに相当するFOSと、衛星データ放送NOAAPORTに配信す
ると言っています)

Unidata LDM メーリングリスト
http://www.unidata.ucar.edu/mailing_lists/archives/ldm-users/2014/msg00207.html
NOAAPORT に出てくれば配信するのだけど、実際にはまだ
出てきていないと言っています。