2018-07-03

高分解能地上高層実況気象報では成層圏で複数層におなじ気圧値が現れることが多々あるはずで、これは仕方がありません

指摘があったのでちょっと手元でわかる範囲で調べただけで、これはもうしょうがないとわかりました。

(当庁の高層担当にきいたわけではないので、そこは明確に概数など不確定な書きかたで説明しています。
突っ込んでお問い合わせになりたい方は、 https://ds.data.jma.go.jp/opinion.php/index.php から聞いてみてください。)

ラジオゾンデの観測結果は、従来から「地上高層実況気象報」として配信されています。「地上なのか高層なのかはっきりしろ」といいたくなる名前ですが、観測場所は高層で、(船じゃなくて)地上から風船を飛ばしたという意味です。
 
気象庁情報カタログ: http://www.data.jma.go.jp/add/suishin/cgi-bin/catalogue/make_product_page.cgi?id=KosoKish

TEMP 報ともいいますが、 WMO(世界気象機関)が定めた FM 35 TEMP というフォーマットのテキスト電文だからです。

さて WMO では観測報を BUFR 形式に転換することとしていて、気象庁でも既に対応しているのですが、今出ているのはこの TEMP 報から変換してつくった BUFR です。当然、TEMP 報にある以上の情報は出ません。そのことにより色々問題はあるわけですが、いちおう僕が共著の論文に記述されています。
https://doi.org/10.1175/BAMS-D-15-00169.1
多数著者とレビューアの妥協の産物で、よくわからないと思うので、率直にはまあこのへんみてください。
https://toyoda-eizi.blogspot.com/2013/12/ambiguity-in-pressure-level-heights-of.html
よくないのはわかっちゃいるのですが、各官署で観測した結果を TEMP 報で集めたところから BUFR を作るという業務形態だとどうしてもそうなってしまうわけです。

そのかわりに、このたび更新整備なった「高層気象観測データ統合処理システム」で直接 BUFR を作ってしまうことによって、上記のような問題の少ないデータができるようになりました。それが配信資料に関する技術情報第478号でお知らせしたことです。
http://www.data.jma.go.jp/add/suishin/jyouhou/pdf/478.pdf
ここでは代表的な改善点として高分解能をあげていますが、TEMP 報では温度構造・風速構造を一定誤差で表現できる最小の点数を選ぶ複雑なアルゴリズムで鉛直通報位置が選ばれていて、まあでも下から上までざっくり300とか数百の層数になっています。それを、ざっくり3000層とか数千層の通報をするのが、BUFR に転換した世界各国の典型的なやりかたです。
 
そのことの意義などは BAMS みてください。

でもって、BUFR で高層気象観測結果を通報するときのテンプレートは BC 25 というのですが、
http://www.wmo.int/pages/prog/www/WMOCodes/WMO306_vI2/LatestVERSION/BC25-TEMP_en.pdf
そこでは、各層の気圧は 10 Pa = 0.1 hPa 単位で通報することとされています。これは元々ひとむかし前に TEMP 報の置き換えのためにデザインされた規則なので、 TEMP 報の最小の精度の情報を出せるようにそうなっているわけです。TEMP 報の気圧の桁数については国際気象通報式第3章の P0P0P0 の項にありますが、まあなんというか一見さんお断りのドキュメントですね。
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/tsuhoshiki/kokusai/kokusai8_22.pdf#page=234

それで、鉛直通報位置は TEMP 報の複雑怪奇なアルゴリズムで選ぶのではなく、通常、ゾンデが上昇中に数秒間隔で送ってくるものをそのまま通報するようになりました。(さすがに多すぎると迷惑なので間引いているかもしてません。気象庁の技術情報であえて4秒でも2秒でもなく「数秒」といっているのは、将来的に時間間隔にコミットしないということです)ゾンデは下から上までほぼ同じように数m/sで上昇しますから、鉛直通報位置は、 10 m のオーダーのほぼ等間隔に選ばれるということです。

地上付近でたとえば 10 m 上昇すれば約 1 hPa 気圧が下がりますから、これは BUFR 通報値はほぼ確実に別の気圧値になります。しかし上層ではどんどん空気が薄くなりますから、たとえば ICAO 標準大気で高度 20,000 m あたりだとたとえば 10 m 上昇しても 0.08 hPa くらいしか気圧が下がりません。気温や上昇速度の加減次第では、0.1 hPa 刻みの気圧が同一値が何個も続くこともあるかもしれません。

これは素敵なことではないですし、「BUFR でありさえすればよい」という程度であれば 0.01 hPa 単位の通報もできなくはありませんが、BC 25 という約束の枠内だと 0.1 hPa が気圧の最小位数になっています。たとえるなら、XMLでありさえすればよいというならおよそ何でも書けますが、特定のXMLフォーマットたとえばAtom Feedに従うという条件のもとでは日付フォーマットが決まったりするようなものです。

そういえばこれに苦情を言っているひとを WMO 通報式コミュニティで見た記憶がないですが、気圧の決定精度からいってこれ以上望んでも意味がないということかもしれません。

ちなみに BUFR 記述子 0 07 004 の桁どりどうだっけ、と思ったとき、 BC 25 をみれば一応書いてありますが、念のため 0 07 004 の記載は最近はこういうところにもあります。
http://codes.wmo.int/bufr4/b/07/_004
scale = -1 というのは、 10のプラス1乗で、単位が Pa ですから結局 0.1 hPa 単位ということです。

【2018-07-04追記】今年5月の専門家会合で、気圧とジオポテンシャル高度の桁数を1つ増やす代替形式の提案がありました。
https://www.wmo.int/pages/prog/www/ISS/Meetings/IPET-CM_Offenbach2018/IPET-CM_DocPlan.html
https://www.wmo.int/pages/prog/www/ISS/Meetings/IPET-CM_Offenbach2018/Documents/IPET-CM-II_Doc2-4-6_radiosondeHighPrecision.docx
このまま行けば今年11月に採択される方向です。システム整備の仕様策定の前に国際合意が確定していれば採用できるのですが、まあそれは次の機会です。

0 件のコメント:

コメントを投稿